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RFP受領後のQ&Aに悩むセールスエンジニアへ送るカイジ利根川の名言

   

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RFPによるコンペの勝負(受注/失注)は、提案書や見積り『以外』で決まる?

あなたはグループウェアを開発・販売するソフトウェアベンダーA社で、セールスエンジニアとしてプリセールス(営業活動の技術支援)を担当しています。

営業と一緒に新規顧客へ訪問し、要件をヒアリングして、提案書や見積りを作成するのがあなたの業務内容です。

現在は、創業30年の自動車部品メーカーD社への提案活動を進めており、間もなくRFP(提案依頼書)を受領して提案書を作成する予定となっています。

D社を担当している営業Hさんは、社内で「見た目はチャラいけど情報収集能力はピカイチ」と評される人物でしたが、あなたが一緒に仕事をするのはこれが初めてです。

営業Hさん
『D社への提案の件だけど、今週末にRFPがもらえそうだよ。』
『本当は先週末の予定だったんだが、D社内部のレビューで時間が掛かったらしい。』
あなた
『D社の担当Bさんも心配してましたね、「ウチの社長が口を出したがるので」って。』
営業Hさん
『D社の社長は町工場を1代で大手自動車メーカーのサプライヤーに育てた「やり手」だからね。』
あなた
『なるほど。そう言えば今回のコンペ、競合はどこになるんでしょうね?』
営業Hさん
『俺が独自のルートで入手した情報によると、X社とY社にもRFPが出るらしい。』
あなた
『X社とY社か。どちらのグループウェアパッケージも大企業向けの価格設定だから、従業員250人のD社だったら、ウチの方が有利ですね!』
『……ところで、どうでもいいけど、「独自ルート」って何ですか?』
営業Hさん 『合コンで聞いた。』
あなた 『は? 合コン? 誰と?』
営業Hさん 『D社の受付の女の子と合コンした時に聞いた。』
あなた 『……。Hさん、あなたも相当の「やり手」ですね。』

 

その週の金曜日に、D社からメールでRFPが送られてきました。

(金曜日にRFPを送り付けてくるのは「土日に内容を読め」ってことか、辛いなぁ……。)

あなたは心の中でボヤきながらRFPをプリンターで印刷し、パラパラとめくり始めました。

(機能要件はヒアリングから変更無しか。休日出勤しなくても提案書の作成は間に合うな。)

と、突然ページをめくる手が止まりました。

【見積前提条件】
グループウェアのライセンス数:1,000ライセンス

(D社の社員数は250名で、採用を見越して300名が見積前提条件だったはず。)

(ウチの価格体系は中小企業をターゲットにしているから、300名以下なら他社より絶対に安いけど……1,000名だと差が無くなって厳しいな。)

(これは記述ミスなのか? とにかくQ&A管理票に質問を記入して今日中に回答が欲しい!)
あなたは、Q&A管理票エクセルシートの1個目の質問として以下のように記入しました。

【質問 No.1】
「見積前提が1,000ライセンスと記載されていますが、この数字は正しいでしょうか。
もしこの数字が正しい場合、システム導入直後の想定ライセンス数なのでしょうか?
あるいはシステム導入後◯年目の数字を想定したものでしょうか?」

質問をメールで送ってから2時間後、D社の担当Bさんから、回答記入済のQ&A管理票が返送されてきました。

【回答 No.1】
「見積前提はRFPに記載の通り、『1,000ライセンス』が正しい数字となります。
この数字は、システム導入時点のものとお考えください。」

あなたはPCの前で頭を抱えました。

(これじゃ、価格での提案差別化は厳しいな。他にアピールできることを考えなきゃ……。)

結局、あなたは翌日の土曜日も出社して、提案書の作成に取り掛かりました。

しかし、提案の骨子が固まらず、全く進捗がありません。

と、そこにコンビニの買い物を両手にぶら下げて、営業Hさんが現れました。

営業Hさん
『頑張ってるねー。ほれ、差し入れの栄養ドリンクとお菓子を大量に買ってきたぞー。
で、進み具合はどうよ? もう100ページぐらいは書けた感じ?』

あなたはふてくされた顔で答えました。

あなた
『ゼロ……。いや、表紙は書いたんで、厳密には1ページ、ですかね。』
『HさんはRFP読みました?ライセンス数の前提が全然聞いてた話と違うんですよ!』
営業Hさん
『いやー、あれはビックリしたねぇ。でもアレだな、RFPが中々出てこなかった事情は、そのあたりにあるのかもしれないな。D社では新工場の建設を予定しているから、それに合わせて採用を拡大するつもりなんだろう。』
あなた
『でも、それならこのプロジェクトの予算が増えたってことですかね?』
営業Hさん
『いや、おそらくだが、予算は変わらない。新工場建設の方に予算が回るから、余裕はないはずだ。』
『あの社長は計画段階では数字を「盛る」のが好きなんだが、いざ金の話になると急にケチになるらしい。』
あなた
『随分とD社の社長の情報に詳しいですね。』
営業Hさん
『D社の受付嬢と合コンしたと言ったが、あれは半分正解で、半分嘘だ。』
『正しくは、D社の受付嬢と社長秘書が合コン相手だったんだ。』
あなた
『……。』
『で、どうしましょうか。敢えて300人前提で見積りを出しますか?』
営業Hさん
『いや、RFPに書いてあるのだから、その前提で提案するのが当然。』
『しかも、ウチはQ&Aで確認したのだから、尚更のこと、無視はできないよな。』
『ただし。』
あなた 『ただし?』
営業Hさん
参考資料として、システム導入時300人・3年後に1,000人に利用者数が増える前提で見積りを作って、提案書の中にシステム増強計画の説明を入れておこうか。』

2週間後、あなたは無事に提案書と見積りを提出しました。

それから3日後。

D社の担当Bさんから連絡があり、

『要件を変更して、導入時の利用者数300人を前提として再度見積りして欲しい』

という依頼を受けました。

(営業Hさんの読み通り、社長のOKが出なかったんだろうな。でも、この条件ならウチが有利に戦えるぞ!

あなたは、参考資料として提出した案を正式な提案書として作り直し、D社へ提出しました。

それからさらに1週間後。

営業Hさん 『取れたぞ! D社の案件はウチが取った!』
あなた
『やりましたね! まぁ、あの条件ならウチが断然安いはずだから当然ですね。』
営業Hさん
『いや、実はX社もY社も相当頑張って、ほとんど費用面では差が無かったらしい。』
あなた 『じゃ、受注の決め手は何だったんですかね?』
営業Hさん
『最初に各社の提案書と見積りが出揃った段階で、社長は各社の見積りが予算よりもかなり高いことに激怒したらしい。』
『その時に担当Bさんが、サッとウチの作った参考資料を出してくれて、それで社長が納得して前提条件を変えることに合意。』
『見積りを再提出した時には3社ともほとんど提案内容や見積りには差が無かったので、社長は担当Bさんにベンター選定を一任したそうだ。』
あなた
『そして、Bさんはウチを選定してくれた、と。』
あの参考資料で、Bさんに恩を売れた訳ですね。』
営業Hさん 『まぁ、そういうことになるな。』『ただし。』
あなた 『ただし?』
営業Hさん 『俺は、今日限りでD社の担当を外れることになった。』
あなた
『え?今回受注できたのは、Hさんのアドバイスのお陰じゃないですか!』
『なぜこのタイミングでそんなことに!?』
営業Hさん
『俺がD社の受付嬢と社長秘書の二股を掛けてたのがバレた。』
『そして、出禁(出入禁止)になった。』
あなた 『……。短い間でしたがお世話になりました。

 

RFP受領後のQ&A対応で、思うような回答が返ってこなかった……。

そんなあなたへ送る言葉が、
福本伸行の漫画『賭博黙示録カイジ』の敵役・利根川幸雄の名言です。

質問すれば答えが返ってくるのが 当たり前か……?
なぜ そんなふうに考える……?
大人は質問に答えたりはしない それが基本だ
無論 中には 答える大人もいる
しかし それは答える側にとって 都合のいい内容だからそうしてるのであって
そんなものを信用するってことは つまり のせられているってことだ

福本伸行『賭博黙示録カイジ』 第6話「変貌」より。

利根川幸雄とは?(あらすじ)

主人公の伊藤開司(カイジ)は、自堕落な日々を過ごしていましたが、金融業者の遠藤により、「かつてのアルバイト仲間が作った借金の連帯保証人にカイジがなっており、その利息が385万円にまで膨らんでいること」を知らされます。

遠藤に誘われたカイジは、負債者に借金一括返済のチャンスを与えるというギャンブル船「エスポワール」号に乗り込むことに。

集まった参加者へルールを説明したのが、裏でギャンブルを取り仕切る大手金融業者「帝愛グループ」の最高幹部の一人である「利根川幸雄」でした。

始めこそ丁寧な口調で話していた利根川でしたが、参加者から「ギャンブルに負けた時の処遇」について質問が飛んだ瞬間に、利根川の態度が豹変。

そこで出たセリフが、この名言でした。
(余談ですが、アニメ版・映画版では、このセリフはカットされているようです。)

その後、カイジは「限定ジャンケン」「人間競馬」「電流鉄骨渡り」というギャンブルを戦い、1千万円に換金できるチケットを獲得しますが、詭弁を弄する利根川の「ルール変更」により、その権利が無効となってしまいます。

しかし、「帝愛グループ」の総帥である「兵藤和尊」の意向で、カイジと1対1でギャンブル勝負「Eカード」を戦うことになった利根川は、そのルールを最大限に活用して心理戦を演出する一方、裏でイカサマを仕込んでカイジを追い詰めていきます。

最終的には、そのイカサマに気付いたカイジが、さらに裏をかく奇策を用いて、利根川に勝利するのでした。

まとめ

あなたが提案書を作成する時に、「この提案書は完璧だ!」と胸を張って言えることがどれだけあるでしょうか?

RFP受領後の限られた時間の中で、様々な制約の中で作成した提案書には、どうしても「上手く書けなかった」という部分が存在するのではないでしょうか。

実は、発注者にとってのRFP(提案依頼書)も、同様に決して「完璧なものではない」のです。

発注者側の社内政治や強気過ぎる数値設定、あるいは単純に担当者の能力不足により、不備があるRFPは意外と多いものです。

では、不備があった場合は、Q&A票(質問項目一覧)でのやり取りで、本来の発注者の意図を汲み取ることが可能なのでしょうか。

もちろん、単純な誤植や記載ミスであれば、Q&A票を通じて正しい情報を入手することが可能でしょう。

しかし、より複雑な問題、たとえば業務要件レベルでの不備は、発注者にとって簡単に認めがたいものであるケースがあります。

そんな時、提案書を作成する立場としては何ができるでしょうか?

大切なのは「その問題について考えた痕跡」を提案書の中に残すことです。

例えば、見積前提条件の中で、
「◯◯問題を考慮すると××機能を追加する必要があるが、本見積では対象外とする」
と書いておくだけでも、(発注者がRFP作成段階で気づかなかったであろう)「要件の漏れ」を考慮したことをアピールできます。

ただし、このような不備に気付くために必要な情報は、得てしてRFPを受領する前に入手できているものです。

そういう意味では、RFPを受領した段階で、既に勝敗は5割程度決まっていると言えるかも知れません。

 

RFPというのは一つの「ルール」です。

そして、コンペに参加するベンダーは、等しくその「ルール」上で競うことが求められます。

その「ルール」から外れるのは問題外ですが、「RFPを受領する前」あるいは「提案書を提出した後」の営業活動により、自社にとって有利な「ルール」に変更することが出来れば、きっと勝率は上がることでしょう。