ITエンジニアを強くする言葉。

このブログではシステムエンジニアやプログラマ、プロジェクトマネージャーがIT業界を生き抜くための支えとなる古今東西の名言や言葉を紹介します。

顧客から理不尽に激怒される新人エンジニアへ送る孟子の言葉

      2016/02/14

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あなたがお客様から怒られることがチームの結束につながる?

あなたは新卒でSIerに入社し、3ヶ月の研修を終えて、開発チームへ配属されました。

今日は、初めて客先でのプロジェクト定例会議に、入社5年目のA先輩と出席する日。

ビジネスマナー研修では何度も名刺交換を練習しましたが、社外の人との名刺交換はこれが初めてです。

あなた 『は、はじめまして! か、株式会社◯◯の××です、よ……よろしくお願いします!』

顧客のリーダー 『おっ、若々しくていいねぇ。 そういえばA君も5年前はこんな感じだったかな?』

A先輩 『いやー、僕は新人の頃からフレッシュさが不足しておりまして。』

顧客のリーダー 『アッハッハ、そう言えばそうだったなぁ。』

お客様との名刺交換は2人目、3人目と順調に進んでいきます。

そして、最後の4人目は、ちょっと神経質そうな雰囲気を漂わせているMさんでした。

あなた 『はじめまして、株式会社◯◯の××です!』

Mさん 『おやおや、名刺の向きが反対ですよ? 御社は名刺の渡し方も教えてくれないんですか?』

あなた 『も、申し訳ありません!!!』

Mさん 『いやいや、今のは冗談ですよ。でも、まぁ、僕は結構そういうのが気になっちゃうんでねぇ。』

あなたは、次の言葉が出てきません。

その瞬間、A先輩が口を開きました。

A先輩 『教育不行き届き、大変失礼しました!』
『今日からコイツには名刺交換を毎日500回練習させます!!』
『そして、私が先輩として毎日501枚コイツから名刺を受け取ります!!!』

顧客のリーダー 『いやいや、そこで名刺が1枚増える意味が分からないから(笑)』

先輩の機転を利かせたギャグ?で空気が和み、定例会議を無事終えることができました。

その帰り道。

あなた 『Aさん、先ほどはスミマセンでした……ありがとうございました。』

A先輩 『まあ謝るようなことじゃないさ。オフィスに戻って議事録を書こうか。』

あなた 『はい、ありがとうございます!議事録書けたらチェックお願いしますね!』

A先輩の心の声 (でも、Mさんに目を付けられると、ちょっと面倒だけどね……。)

オフィスに戻ったあなたは、作成した議事録をA先輩に添削してもらい、何度か修正した後にOKをもらうことができました。

あとはこの議事録ファイルをお客様へメールで送信するだけです。

あなたは先ほど貰った名刺を見ながらメールアドレスを打ち込み、間違いがないかどうか何回も確認した上で、送信ボタンを押しました。

すると、その直後にA先輩が飛んできました。

A先輩 『さっき送ってもらった議事録のメール!肝心の添付を忘れてるよ!』

あなた 『あっ、しまった!すぐに送り直します!』

と、その瞬間に1通のメールを受信しました。

差出人は、神経質なMさんでした。

[件名] Re: 本日の議事録送付
[本文]
××様
お世話になっております。議事録を確認して欲しいとのことでしたが、その議事録が見当たらないようです。
一体、何を確認すれば良いのでしょうか?貴社内部でメールを送信する前に二重チェックをするなど、再発防止策を検討してください。また、メール本文の確認期日の記載について、半角数字と全角数字が混在していて非常に読みにくいので統一してください。

最後に1点。

××様のメールの署名が「◯◯株式会社」となっていますが、貴社の正式名称は「株式会社◯◯」ではないでしょうか?

A先輩 『いやー、メール送って90秒でこの返信が来るとは辛いねー。署名の件は俺がチェックした時も完全にスルーだったわー。スマンね。』

すると、あなたの周りに、同じチームの先輩が次々と集まってきました。

B先輩 『さっきのメール見たよー。さっそくMさんにやられてるねー。』

C先輩 『ま、あんまり気にするなよ。あの人は、いつもコレだからね。』

D先輩 『ぶっちゃけ、君が配属されるまでは、AがMさんに怒られる役だったからさ。先輩からの「引継ぎ成功」ってところかな?』

結局、Mさんからあなたへの「攻撃」は、毎週の定例会議の場やメールでの「お約束」となりました。

あなたが定例を終えてオフィスに戻ってくると、同じチームの先輩から『お、今日はMさんにやられた?』と質問されるのが定番。

あなたが議事録をメール送信する前には、チームの先輩が集まってきて、「Mさん対策」をアレコレとアドバイスしてくれるのでした。
(それでもMさんは対策が及ばなかった何かを見つけてはチクチクと指摘するのですが……。)

 

ある日、あなたは思い切って、A先輩に相談しました。

あなた 『いくら頑張ってもMさんには何かしらツッコまれるし、チームの皆さんに何だか迷惑ばかり掛けて申し訳ないです。』

A先輩 『いや、十分に頑張ってるとは思うよー。それに、君のお陰でウチのチームの仲が良くなった感もあるし。』

あなた 『え、それはどういうことですか……?』

A先輩 『外部に「共通の敵がいる」ってのは、チームの結束を高めるのだよ。』

あなた 『は、はぁぁ。』

お客様から理不尽・不条理・過剰なクレームを受けているあなたへ送る、中国の儒学者・孟子の言葉です。

敵国外患無き者は国恒に亡ぶ

敵国もなく外国との関係にも心配事のない国は、国民全体に緊張感がなくなり必ず滅亡する。

孟子(紀元前372年?-紀元前289年)

孟子とは?

孟子は、中国・戦国時代の儒学者(思想家)で、「孟子の母親が子供の教育のために三度転居した」という「孟母三遷」の故事が有名です。

儒教においては孔子の次に重要な人物であるとも言われており、「性善説に基づいた王道政治」を説いたことで知られています。

孟子が主張した「性善説」とは、「人間には善を判断し (良知) 、実行できる (良能) という生まれながらの能力を持っている」という考え方であり、「王道政治」とは、「国を治める者が仁(思いやりの心)と義(人としての正しい道)を持って、国民を貴いものとして扱うべきである」という考え方です。

では、人間は生まれながらに「善」であるにも関わらず、「悪」となってしまうことがあるのは何故か?

それは「環境」が原因であると孟子は説いています。

「人間は放っておくと善を保つことができない」という考えから、「国外からの緊張感が必要である」と主張したのです。

まとめ

チームが結束力を高めるためには、一つの目標や理念を共有し、浸透させることが大事であると言われています。

その一方で、企業内で(あるいは二次請け・三次請けのメンバーも含めて)結成されたプロジェクトチームでは、それが難しいことがあるのも事実です。

そんな時は、ある一つの脅威(突然のトラブル・クレーム対応が面倒なお客様・いつも無茶ぶりする経営者、等)が、メンバーの絆を深めるのに役立つことがあります。

ただし、一つ注意したいのは、その「脅威」をしっかりとチーム内で共有することです。

あなたが新人であれば、信頼できる上司や先輩に相談をしましょう。

あなたがリーダーや先輩であれば、部下・後輩が一人で脅威を抱え込んでいないかどうか、注意してみましょう。

ITプロジェクトにおいては「性悪説」を前提とするかのような内部統制の強化が叫ばれる昨今ですが、同じチームのメンバー同士は「性善説」でコミュニケーションをとりたいものですね。